移住は、私の変身願望だった。
- GIGI_mtk

- 7月26日
- 読了時間: 3分
変身願望と書くと、少し大げさに聞こえる。
けれど、これまで何度も暮らす場所を変えてきた自分を振り返ると、その奥にはいつも、
「今とは違う自分になりたい」という気持ちがあったように思う。
1991年6月、大学院の修士課程を終えて間もない私は、24歳でイタリアへ渡った。
ヨーロッパで目にした、古い建築と新しいデザインが同じ街の中で生きている風景に強く惹かれた。
自分もそこで仕事をしてみたいと思った。
不安はあった。とくに言葉だった。
それでも、現地で働く自分を想像すると、不安よりも期待の方が大きかった。
あの頃の私は、新しい場所へ行けば、まだ知らない自分に出会えると思っていたのだろう。
それから15年後、40歳で東京から軽井沢へ移った。
こちらには、子どもの健康や育つ環境のこと、自分たちの家を持ちたいという思いがあった。
東京で設計の仕事をしながら、
自然素材の心地よさや光や風とつながる住まいについてクライアントに話していた。
一方、自宅兼事務所の窓を開けると、一メートルほど先に隣の建物が迫っていた。
自分が建築について語っていることと、自分自身の暮らしが、少し離れているように感じ始めていた。
自分が大切だと思っていることを、まずは自分の暮らしで確かめてみたい。
東京を離れれば、仕事の仕方も、家族との時間も、自分自身も変わるかもしれない。
軽井沢への移住には、そんな期待も混じっていた。
候補地には那須や鎌倉もあった。調べ、夫婦で話し、軽井沢へ一泊して、実際の空気を確かめた。
ただ、今振り返ると、現地へ行く前から、私の心はかなり軽井沢へ傾いていたように思う。
土地を見に行ったつもりで、本当に見ようとしていたのは、そこで始まるはずの新しい暮らしだった。
多少気になることがあったとしても、期待の方が大きく見えたのかもしれない。
移住したからといって、人が突然、別人になるわけではない。
場所を変えても、自分の性格や苦手なことまで置いてこられるわけではなかった。
移住にはお金も時間もかかり、新しい土地では仕事も人との関係もつくり直すことになる。
それでも、暮らす場所が変われば、毎日見る景色が変わる。
会う人が変わり、時間の使い方が変わり、考えることも少しずつ変わっていく。
変身は、一晩で起こるものではなかった。
新しい環境の中で、以前とは違う選択を少しずつ重ねることだったのかもしれない。
もちろん、移住の理由は人によって違う。
家族のために移る人もいる。
仕事を求めて移る人もいれば、好きな土地との出会いから移る人もいる。
今の自分を変えたい人ばかりではない。
これは、あくまで私の話だ。
ただ、移住を考え始めたとき、行き先を探す前に、
一度だけ自分に尋ねてみるのもよいと思う。
場所を変えることで、自分は何を動かそうとしているのだろう。
守りたいものなのか。
始めたいことなのか。
取り戻したい時間なのか。
それとも、まだ見たことのない自分なのか。
その答えは、移住先を選ぶためだけのものではない。
これから誰と、どのように暮らしたいのか。
自分たちには、どのような住まいが必要なのか。
その輪郭を探る手がかりにもなる。
私の場合、移住は、
自分の居場所を変え、今までとは違う自分を試すことだった。
少し格好をつけて言えば、人生のステージを移ること。
もう少し正直に言えば、やはり変身願望だったのだと思う。
答えを探す前に、本質を探そう。
by GIGI

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